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東京地方裁判所 平成6年(ワ)8765号 判決

原告(反訴被告)

株式会社長野運輸

被告(反訴原告)

工藤清

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一二九万三九九八円及びこれに対する平成六年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金三六万〇一七二円及び内金六万九〇〇〇円に対する平成五年一一月九日から、内金三万八九八三円に対する平成五年一二月六日から、内金二五万二一八九円に対する同月八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、これを一〇分し、その三を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴

被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、原告(反訴被告、以下「原告会社」という。)に対し、金三九五万四二二〇円及びこれに対する平成六年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告会社は、被告に対し、金一二〇万二九〇四円及びこれに対する平成五年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成五年一一月九日午後三時二五分ころ

(二) 事故現場 水戸市千波町二一六九番地先交差点

(三) 原告車 普通貨物自動車(足立一二い一〇三五)

運転者 訴外宮健二(以下「訴外宮」という。)

所有者 原告会社

(四) 被告車 普通乗用自動車(水戸五六も五九三七)

運転者 被告

(五) 事故態様 原告会社の従業員である訴外宮が、運転業務に従事中、原告車を運転して片側三車線の国道五〇号線を進行し、青信号に従つて信号機のある交差点に直進して進入したが、対向車線上で右折のため待機していた被告車が右折を始め、原告車の右前部に衝突した。

2  責任原因(被告)

被告は、右折をするに際し、対向車の動静に注視し、対向車の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、対向進行してきた原告車の安全を十分に確認しないまま右折を開始した過失によつて本件事故を惹起したので、民法七〇九条により、原告会社に生じた損害を賠償する責任がある。

二  争点

原告会社は、本件事故は被告の一方的過失によつて発生したもので、訴外宮には過失はなく、原告会社は損害賠償責任を負わないと主張し、被告は、訴外宮が、前方の注視を欠き、かつ、右折合図を出して交差点に進入してきたため、原告車が右折するものと思い、被告は右折を始めたものであるから、過失割合は原告会社七〇パーセント、被告三〇パーセントと解するべきであると主張している。

第三  争点に対する判断

一  甲一、五ないし七、乙一ないし四、八の一ないし七、証人宮健二の証言(第一回、第二回)、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場の道路は、片側二車線の国道五〇号線であり、本件交差点付近で右折車線があり、片側三車線になる。制限速度は、法定の時速六〇キロメートルである。本件現場付近の路面はアスフアルトで、本件事故当時は晴れており、路面は乾燥していた。

2  訴外宮は、本件交差点手前約一二〇メートルの地点で県道水戸茨城線から国道五〇号線に進入し、そのまま直進して本件交差点に至つた。訴外宮は、国道五〇号線に進入直後は片側二車線の歩道側の車線(以下「第一車線」という。)を時速約六〇キロメートルで進行していたが、交差点の手前約八〇ないし九〇メートルの地点で進路変更の合図を出して、右側車線(以下「第二車線」という。)に進入を始め、交差点手前約四〇メートルの地点付近(別紙図面〈あ〉の地点)で第二車線に進入を完了し、進路変更の合図を元に戻した。訴外宮は、その際、本件交差点中央付近に右折のため停止している被告車を発見したが、そのまま直進したところ、約三四・四メートル進行した別紙図面〈い〉の地点(衝突地点から約二三・八メートル手前)に至つて、初めて、第二車線前方約二四・九メートルの別紙図面〈ニ〉の地点に、右折のため進行してきている被告車を発見し、衝突の危険を感じて左にハンドルを切りながら急ブレーキをかけたが及ばず、被告車と衝突した。原告車は衝突の衝撃で、左前方に進行し、路外で停止した。

3  被告は、本件交差点を右折するため、本件交差点中央付近で右折合図を出して停止していたが、原告車が進路を第一車線から第二車線に変更した際に、進路変更合図を出したのを見て、原告車が右折するものと誤信し、原告車が第二車線を直進中の約六〇メートル前方の別紙図面〈ア〉の地点(衝突地点から約五四メートルの地点)に進行してきた際に、時速約一五キロメートルで右折を開始したところ、第二車線を本件交差点に向かつてそのまま直進してきた原告車と衝突した。被告車は衝突の衝撃で、後方に移動し、路外の信号機を破損して停止した。

二  訴外宮の過失について

以上の事実によれば、訴外宮は、衝突地点から約五八・二メートル手前の別紙図面〈あ〉の地点で右折のため停止している被告車を発見しているものの、その後、衝突地点から約二三・八メートル手前別紙図面〈い〉の地点に至つて、初めて右折中の被告車を発見するまでの間、被告車の動静の認識を欠いており、訴外宮は、別紙図面〈あ〉の地点から同〈い〉の地点までの間、被告車の注視を欠いていたと認められる。

ところで、訴外宮が被告車を発見し、制動を開始した別紙図面〈い〉の地点から衝突地点までの距離が約二三・八メートル、訴外宮が右折のため停止している被告車を発見した別紙図面〈あ〉の地点から右〈い〉までの距離が約三四・四メートルであるので、衝突地点から別紙図面〈あ〉までの距離は約五八・二メートルとなる。一方、被告車が右折を開始したのは、原告車が第二車線上の別紙図面〈ア〉の地点を直進中の際であり、別紙図面〈ア〉と衝突地点との距離は約五四メートルある。したがつて、被告は、訴外宮が、別紙図面〈あ〉の地点で右折のため停止している被告車を確認した直後に右折を始めていることが認められる。このことは、訴外宮が、右折のため停止している被告車を発見したものの、被告車が右折を開始したことに気づいていないとの、訴外宮の証言とも符合する。したがつて、訴外宮が前方の注視を怠らなければ、別紙図面〈ア〉の地点で前方約五四メートルの地点に右折を始めた被告車を発見することができたと認められる。

被告車の速度は時速約六〇キロメートルであるが、本件事故当時の路面状況等に鑑みれば、制動距離は一般的には約三三メートル前後と考えられ、原告車が普通貨物自動車であることを考慮しても、右のとおりの原告車と被告車の位置関係を考慮すると、訴外宮が前方を注視していれば、衝突地点から本件事故を回避し得たと認められ、訴外宮には、前方不注視の過失によつて本件事故を起こした責任が認められる。

そして、訴外宮が原告会社の従業員であり、原告会社の業務執行中に本件事故を起こしたことは当事者間に争いがないから、原告会社は、民法七一五条により、被告に生じた損害を賠償する義務が認められる。

三  過失割合について

本件事故は、交差点付近が片側三車線となる幹線道路の交差点における、直進車と右折車の事故であり、直進車である原告車が優先される上、被告には、原告車が右折すると軽信した落ち度があり、原告車の安全を十分に確認しないまま右折を開始した結果、本件事故を起こした被告の責任は重大であり、本件事故発生の責任は主として被告に認められる。他方、訴外宮にも、交差点直前に至つているにもかかわらず、右折のため停止していた被告車を発見しながら、約三四・四メートルの間、前方注視を欠いた過失が認められ、訴外宮が前方の注視を怠らず、速やかに被告車の右折を確認していれば、本件事故を回避し得たと認められるのであり、このような事故の態様を考えると、過失割合は、訴外宮が三〇パーセント、被告が七〇パーセントと認めるのが相当であるので、原告会社に対する関係でも、原告会社が三〇パーセント、被告が七〇パーセントと認めるのが相当である。

第四  損害額

一  原告会社

1  車両代 九七万円

甲三によれば、原告車の修理費として一八三万九二二〇円を要することが認められるが、甲九の五及び六、乙九の一ないし三によれば、原告車の本件事故時の価格は、九七万円と認められるので、経済的に全損と認められ、損害額は九七万円と認めるのが相当である。

2  レツカー代 一九万五七〇〇円

甲四によれば、原告会社を事故現場から、原告会社の保管場所まで移動するために要した費用は一九万五七〇〇円と認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  休車損 五一万一四四〇円

甲二、九の二、証人櫻井直幸の証言、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、原告車を使用して運送業を営んでおり、本件事故の結果、原告車が使用できなくなつたため、本件事故がなく、通常どおり原告車を使用していれば得られたであろう利益を得ることができなかつたため、原告会社に休車損が生じていること、本件事故後の平成五年一二月一日ころ、被告の加入している全労済の担当者から原告会社に対し、原告会社の損害は経済的に全損と考える旨の通知がなされていること、右通知後、一週間程度の間に、原告会社は、原告車について、修理をするか、廃車にし、新車を購入するかの判断が行えたと認められること、原告車の修理に必要な期間及び新車の購入に必要な期間は、いずれも一か月間は上回らないことが認められ、本件と相当因果関係のある休車損の認められる期間は、事故後六〇日間と認められる。

前携各証拠によれば、原告会社に生じた休車損は一日当たり八五二四円であると認められるので、本件における休車損は、五一万一四四〇円であると認められる。

4  損害小計 一六七万七一四〇円

5  過失相殺 一一七万三九九八円

前記のとおり、過失割合は、原告会社三〇パーセント、被告七〇パーセントと認められるので、右損害額から三〇パーセントを減殺すべきである。

6  弁護士費用 一二万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、弁護士費用は、一二万円が相当と認められる。

7  合計 一二九万三九九八円

二  被告

1  被告車の損害について

(一) 修理代 二一万円

乙一〇、一一、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告車は本件事故によつて全損したところ、被告車の本件事故時の価格は二一万円と認められるので、損害額は二〇万円と認められる。

(二) 過失相殺 六万三〇〇〇円

前記のとおり、過失割合は、原告会社三〇パーセント、被告七〇パーセントと認められるので、右損害額から七〇パーセントを減殺すべきである。

(三) 弁護士費用 六〇〇〇円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、被告車の損害についての弁護士費用は、六〇〇〇円が相当と認められる。

(四) 合計 六万九〇〇〇円

2  信号機等修理費の求償について

(一) 信号機修理費等 二六万五一七二円

乙五の一ないし七、六の一ないし三、証人櫻井直幸の証言、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故によつて被告車が逸走した結果、路外の信号機と照明灯を破損し、被告は、平成五年一二月六日、信号機の被害者である茨城県に対し、被害の全額である一一万九九四三円を、同月八日、照明灯の被害者である国に対し、被害の全額の七六万三九六一円の、合計八八万三九〇四円を弁済したことが認められる。

本件事故は、原告会社の被用者である訴外宮と被告との共同過失によつて惹起されたものであるから、被告は、過失割合に従つて定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分について、他方の加害者である原告会社に対し、求償できるところ、前記のとおり、本件事故における過失割合は、原告会社三〇パーセント、被告七〇パーセントと認められるので、被告の負担部分は、信号機につき、その七〇パーセントの八万三九六〇円、照明灯につき、その七〇パーセントの五三万四七七二円である。したがつて、被告が原告会社に求償できる額は、信号機については一一万九九四三円から八万三九六〇円を控除した三万五九八三円、照明灯については七六万三九六一円から五三万四七七二円を控除した二二万九一八九円の、合計二六万五一七二円である。

(二) 弁護士費用 二万六〇〇〇円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、信号機等修理費の求償についての弁護士費用は、信号機について三〇〇〇円、照明灯について二万三〇〇〇円の合計二万六〇〇〇円が相当と認められる。

(三) 合計 二九万一一七二円

信号機について三万八九八三円、照明灯について二五万二一八九円の合計二九万一一七二円

3  合計 三六万〇一七二円

4  付帯請求について

被告は、付帯請求として本件事故日である平成五年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

しかしながら、被告の請求のうち、信号機等の修理等に関する請求は、共同不法行為者に対する求償請求であるから、これらについては、被告が被害者である国と茨城県に損害を賠償した時から遅滞に陥ると解されるところ、前記のとおり、被告が、信号機の損害について茨城県に損害を賠償したのは平成五年一二月六日であり、照明灯の損害について被害者である国に対して損害を賠償したのは同月八日であるから、信号機に関する三万八九八三円の求償権については平成五年一二月六日から、照明灯に関する二五万二一八九円の求償権については同月八日から、それぞれ遅滞に陥ると認められる。

第四  以上の次第で、原告会社の請求は、金一二九万三九九八円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成六年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、被告の請求は、金三六万〇一七二円及び内六万九〇〇〇円に対しては本件事故日である平成五年一一月九日から、内金三万八九八三円に対しては平成五年一二月六日から、内金二五万二一八九円に対しては同月八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。

(裁判官 堺充廣)

交通事故現場見取図

〈省略〉

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